ライチョウ(4) — 個体数減少の真実と外来種の影響、保全活動

ライチョウ(4) — 個体数減少の真実と外来種の影響、保全活動

※本コラムは2026年9月に加筆修正しました。

1. はじめに

ライチョウは、中部山岳高山帯の象徴であり、絶滅危惧種に指定されています。環境省のレッドリストでは、2012年に絶滅危惧Ⅱ類(VU)から、より危険度の高い絶滅危惧ⅠB類(EN)に引き上げられました。ここでは、その具体的な減少原因と、対策のための保全活動について詳しく見ていきます。

2.ライチョウの個体数減少の現状

ライチョウの生息数は、約20年前の調査では約3,000羽と推定されていました。しかし、その後の調査では2,000羽以下にまで減少していると推定されており、わずか20年ほどで30%以上も減少したことになります。

ニホンライチョウの推定生息数の推移 1980年代 約3,000羽、2000年代 約2,000〜3,000羽、その後の調査では1,700〜2,000羽と推定されている。 ニホンライチョウの推定生息数の推移 各時期の調査による推定値。淡い部分は推定の幅 0 1,000羽 2,000羽 3,000羽 推定生息数 1980年代 3,000羽 2000年代の調査 2,000〜3,000羽 その後の調査 1,700〜2,000羽
図1 ニホンライチョウの推定生息数の推移。出典: 本文に記した各時期の調査・環境省資料の推定値。いずれも推定で、調査方法や対象範囲が時期により異なるため、幅を含めて目安として示しています。淡い部分は推定の幅(2000年代 約2,000〜3,000羽、その後 1,700〜2,000羽)。

特に南アルプス白根三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)一帯では、1981年に100あった「なわばり」が2004年には41へと約60%も激減しました。北岳周辺では1981年の33なわばりが4に、中白根岳周辺では9なわばりが2になるなど、極めて高い減少率が見られました。

山域ごとに見ると、中央アルプスでは順調に個体数が増加し、第2期ライチョウ保護増殖事業実施計画で設定されたなわばり数の上限目標を1年早く達成しました。北アルプス全体でも個体数は比較的良好で、回復傾向にあるとされています。しかし、日本最北限の生息地である火打山では減少傾向が続き、日本で最も絶滅の可能性が高い個体群とされています。また、乗鞍岳でもなわばり数が過去2番目に少ない水準にあり、南アルプスの一部地域では依然として個体数の減少が続いています。

3.個体数減少の主な要因

ライチョウの減少は、単一の原因ではなく、気候変動、捕食者の増加、他の動物による環境変化、そして人間活動など、複数の要因が複雑に絡み合って起きています。

3-1. 気候変動:奪われる生息地

  • 生息地の消失
    気候変動に関する経済成長重視のシナリオに基づくと、ライチョウの潜在的な生息域は今世紀末(2081〜2100年)までに現在のわずか0.4%にまで減少すると予測されています。経済成長重視(年平均気温が3℃上昇した場合)を想定した気候シナリオに基づくと、ライチョウの生息適性地は今世紀末(2081〜2100年)に現在のわずか0.4%にまで減少すると予測されています。

    ライチョウの生息適地は今世紀末に現在の0.4%に 現在を100%とすると、2081〜2100年の生息適地は0.4%に減少すると予測されている。 ライチョウの生息適地は今世紀末に現在の0.4%に 経済成長重視の気候シナリオ(2081〜2100年)に基づく予測。 現在を100とした割合 0 25% 50% 75% 100% 残る生息適地の割合 現在 100.0% 2081〜2100年 0.4%
    図2 ライチョウの生息適地の予測(現在=100%)。出典: 経済成長重視の気候シナリオに基づく研究(2081〜2100年・本文参照)。現在の生息適地の99.6%が失われ0.4%が残るとの予測で、シナリオと手法に依存します。
  • 逃げ場のない環境
    温暖化は森林限界を上昇させ、ライチョウが暮らせるハイマツ帯などの高山環境を狭めます。試算では年平均気温が1°C上昇すると、森林限界が154m上昇するとされています。海外の高山に生息するライチョウ類が夏に高標高地へ移動して暑さを避けるのに対し、日本のライチョウはすでに山頂付近の限られた高山環境に生息しているため、それ以上逃げる場所がないという特徴があります。

  • 繁殖への影響
    雪解けが早まると、ライチョウの繁殖スケジュールも前倒しになる可能性があります。これにより、雛が孵化直後に梅雨の悪天候にさらされる期間が長くなり、生存率が低下するリスクが高まると考えられています。

3-2. 捕食者の増加と侵入

本来、高山帯には少なかった捕食者が、人間活動や環境の変化、温暖化によって高山帯へ進出しライチョウを脅かしています。

  • 主な捕食者:キツネ、テン、オコジョ、ハシブトガラス、イヌワシ、クマタカ、チョウゲンボウなど。

  • 侵入の原因:温暖化による森林限界の上昇や、登山者が残す食料などが、低地にいた捕食者たちを高山帯へ引き寄せる一因となっています。これにより、特に防御能力の低い卵や雛が狙われる機会が急増しています。

3-3. 他の動物による環境変化

  • ニホンジカ:近年、本来高山帯には生息していなかったニホンジカが急激に高山帯に侵入し、ライチョウの餌であり隠れ場所でもある高山植物を食害しています。これにより、かつて著名な「お花畑」が壊滅状態となるなど、生息環境の劣化が進行しています。

  • ニホンザル:中央アルプスなどでは、ニホンザルの群れが高山帯に侵入することが報告されており、実際にライチョウの巣の近くを通過したことで、親鳥が卵や雛を放棄し、雛が全滅した事例も報告されています。

3-4.  植物による環境変化

火打山ではイネ科植物やミヤマハンノキといった在来の植物が過度に繁茂し、ライチョウの生息環境を悪化させている問題が確認されており、これらの植物の除去試験が行われています。

3-5. 登山・観光による影響

登山道の整備や利用者の増加は、ライチョウに大きなストレスを与えます。特に繁殖期に人が巣の近くを通ることで、親鳥が巣を放棄してしまう危険性があります。ライチョウを見つけても、以下のマナーを守ることが非常に重要です。

  • 静かに行動し、登山道を外れない。

  • 餌を与えたり、追いかけたりしない。

  • 撮影する際は十分な距離を保つ。

※観察マナーの詳細は、長野県の公式サイトが非常に参考になります。2026年2月に公表された観察・撮影マナー7項目は、第11話「登山者ができること — 観察・撮影マナー7項目と2026年の課題」 で全文を紹介しています。

4. 未来へつなぐ保護活動

ニホンライチョウの危機を乗り越えるため、環境省、文部科学省、農林水産省が連携して策定した「ライチョウ保護増殖事業計画」 のもと、国、自治体、研究機関、動物園などが連携し、多角的な保全活動を展開しています。

ライチョウ保護増殖事業のおもな取り組み(3つの柱) 生息地で守る(ケージ保護・捕食者対策・植生回復)、飼育下で増やす(動物園での飼育繁殖)、山へ戻す(中央アルプスの野生復帰)の3本柱と、絶滅危惧ⅠB類からⅡ類へのダウンリストという目標を示す。 ライチョウ保護増殖事業のおもな取り組み(3つの柱) 「ライチョウ保護増殖事業計画」(環境省・文部科学省・農林水産省)に基づく整理 生息地で守る 生息域内保全 ・ケージ保護 — 孵化直後の雛と母鳥を一定期間保護 ・捕食者対策 — キツネ・テンの捕獲 (南アルプス北岳で2017年度〜) ・植生回復 — 火打山でイネ科植物の除去 (2016年〜) 飼育下で増やす 生息域外保全 ・2015年〜 乗鞍岳の卵から動物園などで飼育を開始 ・8園館で65個体(2024年12月・環境省集計) ・スバールバルライチョウ(別亜種) で飼育技術を先行開発 山へ戻す 野生復帰・個体群復活 ・中央アルプス — 2018年の雌1羽の確認を機 に事業化 ・卵・家族の移送、動物園で育った個体の放鳥 (放鳥は2025年度で終了) ・自立個体群かどうかを見きわめる監視フェーズへ (2026年4月〜) 目標: 絶滅危惧ⅠB類(EN)→ 絶滅危惧Ⅱ類(VU)へのダウンリスト (第三期計画 2026〜2031年)
図3 ライチョウ保護増殖事業のおもな取り組み(3つの柱)。出典: 環境省 信越自然環境事務所「ライチョウの概要と保護増殖事業計画について」、第三期ライチョウ保護増殖事業実施計画(2026年4月)ほか、本文の各節に記した資料。年月は本文の記述に合わせています。3つの柱は本連載の整理で、環境省の区分そのものではありません。

4-1. 生息地での対策

  •  捕食者対策

    ・捕食者の捕獲
    南アルプス北岳では、2017年からライチョウの主な捕食者であるキツネやテンの捕獲が開始されました。この取り組みの結果、ライチョウのなわばり数は2014年の9から2019年には35へと約4倍に増加し、成鳥の生存率も約60%から約75%へと改善されるなど、大きな成果を上げています。

    ・ケージ保護
    孵化後約1ヶ月間、母鳥と雛を一時的にケージで保護する取り組みが実施されています。この手法は、捕食や悪天候から雛を守ることを目的としており、雛の死亡率を劇的に低減させ、個体数の回復を後押ししています。中央アルプスでのケージ保護を行った家族では、2023年に雛の生存率が85%、2024年には87%と高い数値が記録されています。

    南アルプス北岳のライチョウ なわばり数 北岳のなわばり数は2014年の9から2019年の35へ約4倍に増えた。 南アルプス北岳のライチョウ なわばり数 捕食者(キツネ・テン)の捕獲は2017年に開始 2014年 2019年 9 35 なわばり数
    図4 南アルプス北岳のライチョウ なわばり数(2014年と2019年)。出典: 環境省 保護増殖事業の報告(本文参照)。2017年からのキツネ・テンの捕獲と並行して増えましたが、増加のすべてが捕食者対策の効果とは限りません。
  • 生息環境の管理

    ・ニホンザルの追い払い
    中央アルプスでは、センサーカメラを用いた監視の下、ニホンザルの追い払い事業が実施され、着実に成果を上げています。ニホンザルは高山帯に侵入し、ライチョウの生息環境である高山植物を食害する問題が指摘されています。この追い払いにより、北部地域におけるニホンザルの撮影頻度が激減しました。

    ・植生の改善
    火打山では、ライチョウの生息地における高山植物の回復を促すため、増えすぎたイネ科植物(草本)の除去が行われています。これにより、ライチョウが採食しやすい環境を取り戻す試みが進められています。

4-3. 生息域外での保全

絶滅のリスクに備え、動物園などでも保護増殖事業の一環として繁殖プログラムが進められています。

  • 飼育技術の確立
    日本のライチョウの飼育技術確立のため、遺伝的に近縁なスバールバルライチョウ(Lagopus muta hyperborea)を用いた飼育研究が先行して行われています。これにより、安定した飼育技術、人工孵化技術、そして雛の健康に不可欠な腸内細菌叢を導入する技術が確立されました。この腸内細菌は、ライチョウが高山植物に含まれる毒物を分解し、消化を助けるために必須です。

  • 中央アルプス個体群復活プロジェクト:

    かつて地域的に絶滅した中央アルプスでは、2015年以降野生個体の飛来が確認され、これを契機に野生復帰プロジェクトが推進されています。2015年には乗鞍岳から採取された卵が上野動物園などで飼育され、これらの個体を含む放鳥や自然繁殖により、中央アルプスでのライチョウの生息個体数は着実に増加傾向にあり、2023年には約65羽、2024年には約130羽、2025年(令和7年度)には83のなわばり・約190羽と推定されています。このプロジェクトでは、遺伝的多様性を維持するため、野生の卵との交換や、野生個体の精子を用いた人工授精といった取り組みも行われています。

    中央アルプスのライチョウ 推定生息数の推移 2023年 約65羽、2024年 約130羽、2025年 約190羽(83なわばり)。 中央アルプスのライチョウ 推定生息数の推移 野生復帰事業の下での推定値。2025年は令和7年度なわばり調査の速報値 0 50羽 100羽 150羽 推定生息数 2023年 65羽 2024年 130羽 2025年 190羽
    図5 中央アルプスのライチョウ 推定生息数(2023〜2025年)。出典: 環境省 信越自然環境事務所の公表資料(2025年7月7日ほか)。いずれも推定値で、2025年は7月5日現在の速報値(83なわばり・約190羽)です。


    ※詳細は コラム:「ライチョウ(9) — 人工繁殖と野生復帰への挑戦」をご覧ください。

5. 未来への展望と課題

中央アルプスでのライチョウの個体数増加という成功は、絶滅の危機にあったライチョウにとって大きな希望となっています。この成果を踏まえ、将来的にはライチョウのレッドリストのランクを、「絶滅危惧ⅠB類(EN)」から「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」へと引き下げることを目指しています。

しかし、地球温暖化という根本的な脅威は依然として存在しており、その影響は消えていません。現在の「ライチョウ保護増殖事業」は2025年度で一つの区切りを迎える予定であり、その後は、増加した個体群が自立できるかを見守る「監視フェーズ」へ移行することが計画されています。

今後も、各地での継続的なモニタリングを行い、気候変動への適応策を講じることが不可欠です。ライチョウの未来は、私たちの継続的な関心と行動にかかっています。

ライチョウの保全活動に関する詳細な情報は、以下のWebサイトでも紹介されています。

一般財団法人中村浩志国際鳥類研究所
https://hnbirdlabo.org/

長野県の「ライチョウ保護スクラムプロジェクト」
https://www.raicho-nagano.jp/

富山県の「とやまのライチョウサポート隊」
https://raicho-mimamori.net

環境省のライチョウ保護活動ページ
https://chubu.env.go.jp/shinetsu/wildlife/rockptarmigan/index.html

次回は、なぜライチョウが“特別天然記念物”に指定されるまでになったのか、その背景と初期の保護活動について詳しく見ていきます。

【出典、参考文献】

  1. 富士山の森林限界上昇に関する研究(新潟大学)

    https://www.niigata-u.ac.jp/news/2020/80383/

  2. 世界の森林限界上昇ペースに関する報告(RIEF) 

    https://rief-jp.org/ct8/138214

  3. 環境省レッドリスト2020
    https://www.env.go.jp/press/107905.html

  4. 環境省 信越自然環境事務所 ライチョウの概要と保護増殖事業計画について
    https://chubu.env.go.jp/shinetsu/wildlife/rockptarmigan/index.html

  5. 環境省 信越自然環境事務所 第二期ライチョウ保護増殖事業実施計画
    https://chubu.env.go.jp/shinetsu/content/900117622.pdf

  6. ライチョウの群れ構成と標高移動の季節変化に関する研究 (2018) 小林 篤, 中村 浩志
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo/67/1/67_69/_article/-char/ja/

  7. ライチョウ概要資料 (2020)
    https://chubu.env.go.jp/shinetsu/content/900117626.pdf

  8. 一般財団法人中村浩志国際鳥類研究所 ライチョウのケージ保護

    https://hnbirdlabo.org/index.php/activity_introduction/cage_protection/

  9. 市立大町山岳博物館 「ライチョウ会議報告書」
    https://www.omachi-sanpaku.com/sanpaku/grouse/

  10. 環境省 信越自然環境事務所 令和6年度 保護増殖検討会資料
    https://chubu.env.go.jp/shinetsu/wildlife/rockptarmigan/R6-1.html

  11. Hotta et al. (2019) Modeling future wildlife habitat suitability: serious climate change impacts on the potential distribution of the Rock Ptarmigan Lagopus muta japonica in Japan’s northern Alps
    https://link.springer.com/article/10.1186/s12898-019-0238-8


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