生物多様性とは何か (9)「身近な普通種が消えている — モニタリングサイト1000 が示す里地の20年」

生物多様性とは何か (9)「身近な普通種が消えている — モニタリングサイト1000 が示す里地の20年」

電線に並ぶスズメ。夏の雑木林の樹液に来るオオムラサキ。そうした光景を「前より見なくなった」と感じることがあります。その感覚が気のせいなのかどうかは、同じ場所を同じ方法で長く数え続けないかぎり分かりません。環境省と公益財団法人 日本自然保護協会は、それを全国325か所で続けてきました。2024年10月1日に公表された「モニタリングサイト1000 里地調査 2005-2022年度とりまとめ報告書」が示したのは、減っているのが希少な生きものだけではない、ということでした。


1. はじめに — 「見なくなった」を確かめる方法

気象庁は2025年12月24日の報道発表「2025年(令和7年)の天候のまとめ(速報)」で、2025年の夏について「顕著な高温となり、北・東・西日本では統計を開始した1946年以降、それぞれ1位の高温となった」とまとめています(速報値)。

気温のように毎日測られている指標は、変化を数字で追うことができます。一方で、身のまわりの生きものの数は、誰かが同じやり方で数え続けないかぎり記録が残りません。田んぼの脇でヒバリのさえずりが減っても、比べるための昨日の数字がなければ「そんな気がする」で終わってしまいます。

本連載の 第2話「身近な生物多様性」 では、里山が人の手入れによって多様な生息環境を保ってきたことを紹介しました。今回は、その里地里山で実際に何が起きてきたのかを、18年分の実測データで見ていきます。数えていたのは、研究者だけではありません。


2. モニタリングサイト1000 里地調査という仕組み

2-1. 325か所、約5,700名

モニタリングサイト1000は、正式名称を「重要生態系監視地域モニタリング推進事業」といいます。環境省 生物多様性センターによれば、高山帯から森林・草原、里地、陸水域、沿岸域、サンゴ礁、小島嶼まで、日本を代表するさまざまな生態系の変化状況を把握することを目的とした調査で、全国約1,000か所の調査地において2003年度から継続されています。第4期とりまとめ報告書概要版によれば、調査参加者は合計5,120名(2024年4月時点の実数、サイトごとの合計値)です。

そのうち里地里山を対象とするのが里地調査です。里地調査は市民が主体となって地域の記録をとる「市民調査」として設計され、事務局は日本自然保護協会が担当しています。2005年度から2022年度までの全国325か所のサイトから得られたデータが、今回の解析対象になりました。報告書は、この18年間を担ってきたのが約5,700名の市民調査員(2008〜2022年度)であると記しています。

2-2. 記録された4,382種

調査項目は単一の分類群ではありません。植物相、鳥類、哺乳類、チョウ類、水環境などを総合的に記録します。その結果、記録された生物種は合計4,382種(うち在来種3,867種)に達しました。報告書によれば、このうち植物・鳥類・チョウ類は日本の在来種の43%〜56%を占め、環境省レッドリスト掲載種の10〜40%を占めています。調査サイトは国土のごく一部にすぎません。


3. 普通種が、絶滅危惧種の減少率基準に相当する速さで減っている

3-1. チョウ類103種のうち34種、鳥類106種のうち16種

報告書の中心にある数字はこうです。里地調査で記録されたチョウ類181種のうち、出現頻度が低い種を除いた評価対象種103種を見ると、34種(33%)の記録個体数が1年あたり3.5%以上の速さで減少していました。記録された鳥類286種のうち、同じく出現頻度が低い種を除いた評価対象種106種では、16種(15%)が同じ水準で減少していました。

里地調査の評価対象種のうち急速に減少した種の割合 チョウ類は評価対象103種のうち34種(33%)、鳥類は106種のうち16種(15%)が年間3.5%以上減少。 里地調査の評価対象種のうち急速に減少した種の割合 年間3.5%以上の減少=レッドリストⅡ類の判定基準(10年で30%)に相当。 2008〜2022年度 0 10% 20% 30% 急速に減少した種の割合 チョウ類(103種のうち34種) 33% 鳥類(106種のうち16種) 15%
図1 里地調査の評価対象種のうち、年3.5%以上のペースで減少した種の割合(2008〜2022年度)。出典: 環境省・日本自然保護協会「モニタリングサイト1000 里地調査 2005-2022年度とりまとめ報告書」(2024年10月公表)。分母は、記録されたチョウ類181種・鳥類286種のうち出現頻度が十分にあった評価対象種(103種・106種)です。調査サイトに限った結果で、全国の種の状況をそのまま示すものではありません。

大事なのは分母です。「日本のチョウの3分の1が減った」ではなく、「里地調査のサイトで十分な回数記録された種のうち、3分の1が減っていた」です。逆に言えば、めったに見つからない希少種ではなく、頻繁に記録される種を対象にした結果だということでもあります。

3-2. 「1年あたり3.5%」はどのくらいの速さか

報告書は、この水準を環境省レッドリストの判定基準と対応させて説明しています。判定基準のひとつに、過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間で、80%以上(絶滅危惧ⅠA類)、50%以上(ⅠB類)、30%以上(Ⅱ類)個体数が減少していること、という項目があります。10年で30%の減少を1年あたりに換算すると、およそ3.5%です。ただし報告書は、今回の結果は里地調査のサイトに限った結果であることから、これだけで全国を対象とするレッドリストのカテゴリーが決まるわけではない、と明記しています。

速さの実感として、1年あたり3.6%(次項で触れるスズメの値)の減少がそのまま続く場合を計算すると、約20年でおよそ半分になります。1年ごとに見れば小さな変化ですが、20年という時間をかけると、風景の側が入れ替わる大きさになります。

3-3. 名前を知っている種が並ぶ

里地で急減している身近な鳥とチョウ(記録個体数の年変化率) 鳥類7種とチョウ類7種の年変化率を横棒で示す。すべて負の値で、鳥類はオナガ-14.1%からスズメ-3.6%、チョウ類はクロセセリ-22.0%からジャノメチョウ-3.7%。 里地で急減している身近な鳥とチョウ(記録個体数の年 変化率) モニタリングサイト1000 里地調査 2008〜2022年度・全国325か所 (減少が大きい種を抜粋) -25% -15% -5% 0 鳥類 オナガ -14.1% イワツバメ -12.1% バン -9.4% セグロセキレイ -8.6% オオタカ -5.2% ホトトギス -4.4% スズメ -3.6% チョウ類 クロセセリ -22.0% スギタニルリシジミ -20.2% オオムラサキ -10.4% イチモンジセセリ -6.9% アカタテハ -5.8% ヒカゲチョウ -4.4% ジャノメチョウ -3.7%
図2 里地で急減している身近な鳥とチョウ — 記録個体数の年変化率(2008〜2022年度。全国325か所の里地調査で、評価対象種のうち減少が大きい種を抜粋。※印のクロセセリとスギタニルリシジミは出現頻度が20台と限られます)。出典: 環境省・日本自然保護協会「モニタリングサイト1000 里地調査 2005-2022年度とりまとめ報告書」付表A・B(2024年10月公表)。調査サイトに限った結果で、全国の種の状況をそのまま示すものではありません。年3.5%以上の減少は、レッドリストⅡ類の判定基準(10年で30%)に相当する速さです。

報告書の付表には、種ごとの個体数変化率(2008〜2022年、1年あたり)が並んでいます。鳥類ではオナガが−14.1%、イワツバメが−12.1%、バンが−9.4%、セグロセキレイが−8.6%、オオタカが−5.2%、ホトトギスが−4.4%、スズメが−3.6%でした。チョウ類ではオオムラサキが−10.4%、イチモンジセセリが−6.9%、アカタテハが−5.8%、ヒカゲチョウが−4.4%、ジャノメチョウが−3.7%です。減少率がいちばん大きかったのはクロセセリの−22.0%とスギタニルリシジミの−20.2%でしたが、この2種は出現頻度(出現サイト数×年)が20台と限られており、多くの地点で確認された種とは前提が異なります。

報告書は、急速な減少がみられた種にはイチモンジセセリ・ジャノメチョウ・ヒカゲチョウ・アカタテハなど身近に見られるチョウ類が多数含まれ、鳥類にもスズメ・オナガ・ホトトギス・セグロセキレイ・バンなど身近にみられる種が含まれていた、と述べています。図鑑の後ろのほうに載っている種ではなく、名前を知っている種が並んでいる、ということです。


4. 減っているのは「開けた環境」の生きもの

4-1. 森の鳥は横ばい、農地の鳥は減る

減り方には偏りがありました。生息・生育環境別に解析すると、森林性の種は増加傾向にあるか増減が認められない一方で、農地や草原、湿地などを含む開放地性の種が減少しており、この傾向が鳥類・チョウ類・植物の3分類群で共通していました。

鳥類については、里地調査に森林・草原調査を加えた解析が報告書のBOX1にまとめられています。2009年から2020年の全国119地点・鳥類47種を解析したところ、森に生息する鳥類の多くは記録個体数が増加もしくは安定していた一方、里山や農地に生息する鳥類の多くは減少していました。報告書はこの変化について、森林の成熟化と農地・草地の減少等の土地利用変化が、森の鳥にはプラスに、里山や農地の鳥にはマイナスに影響した可能性を示唆している、としています。2015年以降のスズメやヒバリ等の農地の鳥の減少率は、1年あたり7.4%と算出されました。良好な水辺環境の指標種であるホタル類・アカガエル類、草原環境の指標種であるノウサギ・カヤネズミの減少も顕著だったと報告されています。

4-2. 気候変動のあらわれ方

気温の影響は、いくつかの形で現れていました。報告書によれば、気温の上昇幅が大きいサイトほど草原性の記録種数が減少する傾向が、植物・チョウ類・鳥類の3分類群で共通して確認されました。南方系チョウ類(主に熱帯・亜熱帯まで生息する種)の記録個体数は年々増加傾向にあり、生息する気温帯が限られる鳥類ほど減少率が大きいという関係も示されています。アカガエル類の初産卵日は冬期の気温と関係して変化し、1年あたり0.49〜0.96日早まっていました。季節のずれと種の入れ替わりは、第6話「私たちの暮らしに忍び寄る変化」 で扱った実感の変化と重なります。

4-3. 管理されない里山と、足りない資金

もうひとつの要因が里地里山の管理です。2022年度のアンケートでは、管理されていない二次林・人工林・水田・草地・溜め池があると回答したサイトが61〜87%を占めました。ナラ枯れ・マツ枯れは回答したサイトの31〜43%で生じ、ナラ枯れは第3期と比べて拡大しています。開発行為による生息・生育地の損失があると回答したサイトは20%でした。

里地調査サイトの現状 — 2022年度アンケート 管理されていない環境がある61〜87%、ナラ枯れ・マツ枯れ31〜43%、開発による損失20%、外来種防除を実施59%、年間活動資金10万円未満が6割超。 里地調査サイトの現状 — 2022年度アンケート モニタリングサイト1000 里地調査の参加サイトへの調査。回答サイトに占める 割合。淡い部分は環境の種類による幅 0 25% 50% 75% 課題 管理されていない環境がある 61〜87% ナラ枯れ・マツ枯れが生じている 31〜43% 開発による生息地の損失 20% 活動 外来種の防除を実施 59% 年間の活動資金が10万円未満 60%
図3 里地調査サイトの現状 — 2022年度アンケート。出典: 環境省・日本自然保護協会「モニタリングサイト1000 里地調査 2005-2022年度とりまとめ報告書」(2024年10月公表)。回答サイトに占める割合で、淡い部分は環境の種類による幅(61〜87%、31〜43%)。

一方で、市民による保全活動は増えていました。2022年度には約6割のサイトで里地調査の成果が活用され、外来種の防除活動を実施していると回答したサイトは第4期に59%に達しています。調査結果の活用によって生物多様性の改善につながったと報告したサイトも10.7%(18か所)ありました。ただし年間の活動資金は10万円未満という回答が6割を超え、生物多様性保全活動を支援する外部資金を受給しているという回答は1割未満で、第2期と比較して半減しています。報告書は課題として、調査員の高齢化と後継者不足も挙げています。


5. 里から稜線へ — 高山で起きていること

同じ第4期とりまとめの概要版は、里地以外の生態系についても変化を報告しています。高山帯ではハイマツの生長量の増加が挙げられ、ニホンジカの分布域が里地や森林から拡大して近年は高山帯でも確認され、高山植物への食害が生じていること、北海道の大雪山の高山帯では近年セイヨウオオマルハナバチが目撃されるようになったことが記されています。里で見えていた変化は、標高を上げても形を変えて現れています。

高山植物そのものについては、北海道大学が2025年2月4日に公表した研究があります。大雪山のお花畑で過去40年間に増減した高山植物12種を比べたところ、減少している種には地下部の形態に共通の性質があった、というものです。減少した種は増加した種に比べて水平型地下茎が発達しておらず、養水分の吸収を担う細根が少なく太い。研究チームは、これらの種が近年の地球温暖化によって引き起こされた土壌乾燥化の影響を受けて急速に減少した、と説明しています(論文はAlpine Botany誌に2025年1月6日付でオンライン公開)。

高山植物は、ライチョウの餌であり隠れ場所でもあります。ライチョウをめぐる保護の現在地は、姉妹連載の ライチョウ第10話 で扱っています。稜線の話と、里の電線にとまるスズメの話は、別々の物語ではありません。


6. 記録する側にまわる — 市民科学の入口

18年分の数字を作ったのは、特別な装置ではなく、同じ場所へ通い続けた人たちでした。同じことに参加する道は、いまも開かれています。

6-1. モニタリングサイト1000 里地調査

里地調査の調査サイトは、5年に一度、募集と選考が行われます。日本自然保護協会によれば、次の調査サイトの募集は2027年度を予定しています。募集期間以外に新しいサイトを登録することはできませんが、近くの調査サイトでの調査に参加してみることや、自分が活動する里山などで試験的に調査を実施することは可能だと案内されています。

6-2. 生物季節モニタリング

季節の記録には、別の入口があります。気象庁は1953年から2020年まで、全国59の気象台・測候所で65種目の生物季節現象を記録してきましたが、2021年からはこのうち6種目9現象以外の項目が継続されないことになりました。これを受けて2021年度に始まったのが、国立環境研究所が気象庁・環境省との連携・協力のもとで実施する「市民調査員と連携した生物季節モニタリング」です。

気象庁の生物季節観測 — 観測種目数の変化 気象庁の生物季節観測は65種目から2021年に6種目へ縮小した。 気象庁の生物季節観測 — 観測種目数の変化 1953〜2020年は全国59地点で65種目。2021年からは6種目9現 象に縮小 1953〜2020年 2021年〜 65種目 6種目 観測種目
図4 気象庁の生物季節観測 — 観測種目数の変化。出典: 気象庁の生物季節観測の見直し(2021年)、国立環境研究所「市民調査員と連携した生物季節モニタリング」。1953〜2020年は全国59地点で65種目、2021年からは6種目9現象に縮小。

対象は、気象庁がこれまで観測してきた植物32種目・動物34種目です。タンポポの開花日、ツバキの開花日、ウグイスの初鳴日といった項目を、週に数回通える場所で観測して報告します。1人でも、家族でも、学校や職場のグループでも参加でき、常に調査員を募集していると案内されています。調査地に見当たらない種や見分けがつかない種は観測しなくてよく、お気に入りの1種だけでもよい、とも書かれています。すでに毎年見ているものを日付とともに書きとめれば、それが約70年分の記録の続きになります。


7. おわりに — 名前を知っている生きものが減るということ

絶滅危惧種の数は、危機の大きさを測る指標として広く使われてきました。本連載でも、第5話「日本国内で直面する生物多様性問題」 でレッドリストの数字を扱っています。ただ、リストに載る前の段階で起きていることは、その数字には現れません。今回の報告書が示したのは、まだ載っていない、名前を知っている種の側で減少が進んでいるという事実でした。報告書自身も、保全の意識が高いと考えられるサイトですら改善傾向が見出せないことは、日本全国の里地里山における生物多様性の損失はもっと深刻であることを示唆している、と述べています。

私たちにできることの多くは、劇的ではありません。近くの里山の作業日に出る。開花日を書きとめる。地元の調査サイトの報告会に行く。どれも1年では意味が見えにくく、10年、20年で意味を持つ種類の行動です。18年分の数字は、そういう時間の使い方によってしか作れませんでした。

OFLAは、製品売上の一部をニホンライチョウをはじめとする研究・保護活動に寄付しています。寄付の仕組みは PROMISE ページ で公開しています。数える人がいなければ変化は見えない。その当たり前を踏まえて、私たちは調査と保全にあたる人たちの活動を、静かに支え続けます。


【出典・参考文献】


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